rBOM導入事例|キヤノントッキ株式会社様(旧トッキ株式会社)

※トッキ株式会社は、2012年1月1日に社名を「キヤノントッキ株式会社」に変更しております。本事例ならびに企業DATAは、2006年2月に作成されたものです。

トッキ株式会社は、家電・電子機器メーカーなどが製品をつくる際の製造装置や実験装置の設計・製造・販売を行っている。1999年に世界初の有機ELパネル製造装置を開発し、同分野のトップメーカーとして成長中だ。有機ELディスプレイは液晶、プラズマに次ぐ次世代フラットパネルディスプレイとして、2000億円規模の市場に育つといわれる。同社は市場拡大をにらみ、有機EL事業に経営資源を集中するため、効率的な生産管理システム構築に着手した。

マニュアル化できない特殊機械づくり

「有機EL」(Organic Electro-luminescence)という言葉を聞いたことがあるだろうか。

発光層と呼ばれる部分に電圧を加えたときに発生する現象(ルミネセンス現象)で、発光体に有機発光材を使うことから有機ELと呼ばれている。この技術を使ってできるELディスプレイは、低電カで高い輝度を得ることができ、応答速度や消費電力の点で優れているとされる。

近年、開発・研究が進み、現在はPDAや携帯電話のパネル画面、カメラのファインダ一部分に、また将来的にはTVや照明器具などへの応用が期待されている。

トッキでは、メーカーの商品開発部門や大学の研究室から、特殊な製品の製造機械や実験装置を数多く受注する。トッキという社名も「特別(特殊)な機械(特機)をつくる企業」の意味から命名されたものだ。

研究開発や実験に使われる装置のため、商品設計の変更や実験結果しだいでは、製造中の製品でもつくり直すこともある。それゆえ、同じ製品は2つとできあがらない。

同社取締役執行役員 総務部長の鳥居清二氏がこう説明する。

「お客様としては、まず開発する商品や研究結果のイメージがあって、そのための安価で効率的な装置の製作を当社に求めてくるのです」

鳥居部長は、自社の業務分野を「技術が先行して商品がそれを追いかける世界」と表現する。その代表が冒頭に紹介した有機ELだという。

有機ELは視野角が広いうえ、明るく応答速度が速いなど、技術的には液晶ディスプレイに対して優位点が多い。次世代ディスプレイの主流と有望視されているのはこのためだ。しかし一部を除いて、商品として普及するには、なお時間を要する。現時点では、価格面で、更なる低価格化が進む液晶ディスプレイに追いつかないのが実情だ。

現在、有機ELを使用した製品の多くは、携帯電話の背面ディスプレイパネルや携帯音楽プレイヤー、カーオーディオに利用されており、基板の大さきが決められていない。そのため同社では有機EL製造装置の受注があっても、一つーつつくるしかない。

「こうした理由から生産ラインはマニュアル化できず、独特の工程にならざるを得ません」(鳥居部長)

高まる戦略的工程管理によるコスト削減の要求

量産品ではないだけに、同社が抱える部品は、30万点を超える膨大な数にのぼる。そのうえ、受注した時点ではイメージレベルでの開発要請の場合も少なくない。また、開発過程では相手先との問で設計変更もある。製品価格は10億~30億円規模の大型機械が大半だ。仕掛かり在庫品は現在約60億円に達しているという。

そうした状況の中で、熟練した技術を持つ職人がつくり上げる機械は、時に予算管理が徹底しないケースもあったという。

また生産の過程では、ある製品に対して、部品の点数や購入価格の把握が十分ではなかった。

「生産の全体像が必ずしも適正に把握できていないというのが実情でした。職人の技術に頼る傾向が強い会社でしたから、現場重視の経営体質だったのです」(鳥服部長)

生産現場ではよりよい商品づくりに励むのが常であり、その姿勢は大切だが、企業としてはコスト削減も重要な課題の一つだ。

今回のシステム構築の狙いは、製品の個別原価を的確に把握し、仕掛かり在庫をできる限り減らすことにあった。大半の製品が、設計から納品まで約8か月を要する大型機械だが、顧客に完成品を納めてみなければ総コストがわからないという状況では、コスト削減はいつまでも先送りになってしまう。

そこでトッキは、製品に使用するーつーつの部品の価格や数量をタイムリーに把握できる生産管理システムの導入を考えたのだ。

検討の結果、個別受注型の組立型製造業の間で普及している製番(製品番号)管理の概念をふまえたうえで、導入システムには、統合部品表「BOM」(Bill Of Materials)をデータベースとする個別受注型生産管理システム「rBOM」が選ばれた。

BOMとは、ある製品を構成する部品や資材の相互関係を示す、部品表のことである。この部品表では、上位から下位までの部品に製品番号をつけて管理する。例えばAという上位部品は「中間層の部品Bが2個」と記録され、中間製品はさらに「部品Cが3個」という具合に階層的にデータベース化されていくというものだ。

1製品につき10万点もの部品を必要とする同社にとって、最適の選択といえるだろう。

「rBOM」は2003年末に新潟県の同社見附工場でシステム構築が始まり、試行期間を経て2004年7月に本稼働した。

部品の数量や在庫場所を瞬時に把握

同社では製番を「工番」と呼んでいる。昔は図面に番号を割り当てて管理し、設計・開発に当たっていた。BOMという概念がなく、生産の工程ごとに図面の番号としてナンバリングし、その図番がファイル名になっていたのである。このファイルを「全体図版」と呼んでいた図面で管理していた。

しかし、製品は年々大型化していく。1種類の機械で3万枚の図版を抱えることもあるというから、とても人では管理しきれなくなっていた。

同社は機械商社から出発しているだけに、大手ITベンダー数社との間で販売代理店契約を結んでいた歴史がある。そのため、同社のシステムは複数のベンダーとの間でシステムが構築されている。

「rBOM」は、この生産システムにおける各部品の管理を担うことになった。「rBOM」は、設計から製品完成までの工程ごとに、部品の在庫を明らかにする特徴がある。また型番や数量、さらには工数や工順も一覧できる。

1台の製品に5万~10万点もの部品を使う同社の生産現場では、シンプルで使いやすいと好評だ。

「とくに検索機能に優れていて、工場部門では部品の発注・入荷状況や在庫場所が瞬時につかめるところを、高く評価しています」(鳥附部長)

「rBOM」導入の効果は、それだけではない。

各工程に配置された担当者が、部品の構成要素を把握し生産ラインの全容が閲覧できるようになったのだ。そのため、納期までの状況把握を、より明確にすることができ、工程管理に対する意識が変化したという。

いままで同社の従業員は、自分の持ち場の部品しか関心がなかったという。しかし「rBOM」の導入で、階層的な部品表の概念を知ることができたのである。

「製品全体の部品構成を見渡せるようになりました。コスト意識を高めるうえでもよかったと思います」(鳥居部長)

「生・販・財」の統合システム構第ヘ

同社では、有機ELの製造に経営資源を集中して以来、ここ5年間で生産体制が急激に変化しているという。

急速に技術革新が進む新分野への対応力を身につけるため、「職人集団」から「技術屋集団」への質的転換を迫られている。

そんな中、トッキの生産体制の合理化は、今回のシステムで一応のめどがついた。しかし、もちろん同社はこれだけで満足しているわけではない。

生産管理システムは、販売や財務のシステムと結びついた統合的なものでなければ、予算の徹底管理やコスト削減は実現しない。JASDAQに上場して13年。今後もさらなる企業価値向上を目指すトッキにとって、設備投資に見合った収益をあげる企業体力の強化が重要だ。

同社は株主をはじめとしたステークホルダーから、コスト管理の徹底を求められている。このため、財務関係資料の抽出を狙いとした「rBOM」の第2次システム開発が、2006年7月の稼働を目指して現在進行中だ。

1~2年後には生産・販売・財務を統合したシステムを構築する予定もある。

「生産や管理など、どの部門からでも会社が製造しているモノの情報が共有できるような業務環境をつくり上げていきたい、と考えています」(鳥居部長)

企業DATA

社名 キヤノントッキ株式会社(旧トッキ株式会社)
本社 東京都中央区八重洲会2-7-12
設立 1967(昭和42)年7月29日
従業員 単独203名
売上高 単独76億円(2004年度=04年7月~05年6月)
事業概要 真空技術応用製品の開発・製造および販売